2014-08-04 Mon
アクションシーンは前作のバージョン1.1原題:るろうに剣心 京都大火編
製作:2014年 日本、大友 啓史監督
出演:佐藤健、藤原竜也、武井咲、ほか
レート:★★★☆☆
前作から2年。再びサトタケ剣心が帰ってきた!

日本映画史上最高レベルと言ってもいいアクション演技に驚かされた前作。今回は、平穏に暮らしていた剣心(佐藤健)の下に政府のお役人が現れるところから物語は始まる。なんでも、剣心の後継者として「影の人斬り役」を引き継いだ志々雄真実(藤原竜也)が、全身に大火傷を負わせた明治政府へ復讐を企てているというのだ。殺さずの誓いを立て人斬りをやめた剣心だったが、時代にけじめをつけることを決心し、薫(武井咲)の反対を押し切り単身で志々雄のいる京都へ向かう、というのが2部作の前編にあたる今回の「京都大火編」。
結論からいうと、やや期待ハズレ。アクションは前作のバージョン1.1という感じで、劣化はしていないが、特に進化もしていなかった。カメラと一緒にジャンプするシーン、敵と高速で剣を交えるシーン、スライディングで走るシーンなど、いずれもじゅうぶん見応えはあるし、役者もリミットぎりぎりの演技をしているのは分かるのだが、人間とは欲なものでついつい前作を上回るものを期待してしまうのだ。希望的観測をいうと、後編となる「伝説の最期編」によりスゴイのをとっておいているんじゃないかと思う。
2部作にしたのはビジネス的な理由しかないだろうが、映画2本分にした弊害は話のテンポの遅さとなって表れていた。剣心の迷いを演出するためといえば聞こえはいいが、見ている方としては早く剣心に戦ってもらいたいのだ。また、やたら説明セリフが多いのも気になった。原作を知らない人でも理解できるように、とにかく分かりやすくなるよう作ったのが見え見えである。シリーズものの続編は、第一弾に比べてキャラや背景の説明が不要のためテンポは上がるはずのものだが、今作はむしろ前作よりのんびりしている印象を受けた。
相変わらずの豪華キャストで、各キャラのハマり具合も前作以上のハイクオリティだ。四乃森蒼紫の伊勢谷友介、瀬田宗次郎の神木隆之介、田中泯にいたっては翁が漫画から現実世界に飛び出したような似まくりの配役である。ラストシーンのあのスター俳優に関しては・・・まぁ、事務所的・興行的なキャスティングとしかいいようがないけど。良い意味でのサプライズは巻町操役の土屋太鳳。どこまで本人がこなしたかはさておき、素早い身のこなしと跳躍力で小気味の良いアクションが作品の良いアクセントになっていたと思う。
さて、後編は一ヶ月後。ストーリーはもういいので、何か日本映画のアクション史に一石を投じるシーンを一つでもいいから見たいものだ。
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2014-08-01 Fri
街を覆う謎の巨大クモは何を意味するのか?原題:ENEMY
製作:2014年 米国、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
出演:ジェイク・ギレンホール、メラニー・ロラン、サラ・ガドン、ほか
レート:★★☆☆☆

5月に見た『プリズナーズ』が良かったので、同じ監督ということで見に行った。
主演は『プリズナーズ』でもヒュー・ジャックマンとともにダブル主演として起用したジェイク・ギレンホール。ある日、アダムは自分と瓜二つの姿形の男アンソニーを発見し、居ても立ってもいられなくなり会いに行ってしまう。アンソニーはもちろん彼の妻ヘレンも戸惑ってしまう。一方アンソニーはアダムの彼女メアリーの存在に気付き、興味をもつ。妻を困惑させた償いとしてメアリーを差し出すようアダムを脅迫し、一日だけ互いの存在を入れ替えることに。服を交換し、互いのパートナーとひと晩を過ごすが・・、といったストーリー。
90分くらいの長さだが、テンポは遅く、↑の話を90分かけてめちゃゆっくり語っていく。ところどころで不快な音楽と、謎のCGクモが現れ、観客を混乱させる。見る者は当然、瓜二つの二人がスワッピングした結末にエクスタシーを求めてしまうだろうが、ヴィルヌーヴ監督は最後に謎が謎呼ぶヘンテコリンなラストシーンを突きつけて終わる。何を言いたいのか分からない突然のあのカットが現れ、暗転してエンドクレジットが流れ出すとそこには「えっ・・」という観客のなんとも言えない空気が流れていた。
全編に漂う怪しげで緊張感漂う空気の作り方はさすがの腕前。でも『プリズナーズ』と違い、今回は監督が何を言いたかったのかがよく分からずじまい。ただのミステリーの謎解きだと思って見ると面食らってしまうだろう。それでもいいから、ピリっとした緊張感とスリル、そしてエロティックな空気に浸りたい時はおすすめの一本です。
2014-07-30 Wed
19歳の女優が見せつける度胸と覚悟原題:私の男
製作:2014年 日本、熊切 和嘉監督
出演:浅野忠信、二階堂ふみ、藤 竜也、ほか
レート:★★★★☆
奥尻島を襲った大地震による津波で家族を失った10歳の花(山田 望叶)は、遠い親戚と名乗る男・腐野淳悟(浅野忠信)に引き取られることになった。たった1人生き残ってしまった花と、家族の愛を知らないまま、白銀の冷たく閉ざされた町で独り生きてきた淳悟は寄り添うように暮らし始める。花(二階堂ふみ)が高校生になったころ、二人を見守ってきた近所に住む大塩(藤竜也)は、二人のただならぬ関係を察知し、ある行動に出るが・・。

直視するのもはばかる二階堂さんの官能さ。19歳でこんなんいいの?という演技を堪能できる一本。
舞台となる北海道は厳しい真冬の寒さ。灰色の空と白く積もった雪、そして流氷。田舎町の閉鎖的な空間と空気が、観客をこの物語に引きずり込んで離さない。二階堂さんと、マイティ・ソーの臣下でもある浅野忠信氏は親子なのだが、ただならぬことをしでかしてしまう。19歳という年齢でこんな要求に応えられてしまう度胸と覚悟に、世の男どもは縮み上がってしまうこと間違いなしだ。
この作品のハイライトは何と言っても、天井から降り注ぐ多量の血液の中で二人が愛しあうシーンだろう。このシーン以外はリアルな世界なのだが、ここだけ唯一ファンタジーなのだ。非常に生臭くてエロティックなシーンなのに、突然ファンタジーの世界へ誘われるギャップに戸惑いつつ、でも一線を越える二人の息遣いと二階堂さんの官能的なボディに目は釘付けになってしまう。
公開後に海外の映画祭で賞を獲るなどタイムリーに話題性も上がって、作品の規模からすると異例の拡大公開、ロングランをした方だと思う。好きっていいなよとか背筋がうすら寒くなるセリフが飛び出る作品が5億突破とかニュースになっていて、この国はどうなってしまうんだろうと心配になっていたけど、こういう映画を見に行く人がいることにほっとひと安心したりもする。
2014-07-29 Tue
東の横綱現る原題:Divergent
製作:2014年 米国、ニール・バーガー監督
出演:シャイリーン・ウッドリー、ほか
レート:★★☆☆☆
舞台は近未来のシカゴ。全人類は、16歳で受ける“選択の儀式”により強制的に5つの共同体(ファクション)に振り分けられ、そこで生涯を過ごすことを義務付けられていた。儀式に臨んだ主人公トリス(シャイリーン・ウッドリー)は、5つのファクション(無欲、高潔、平和、勇敢、博学)のいずれにも該当しないことが判明。トリスは世界を脅かす存在“ダイバージェント(異端者)”とジャッジされ、社会システムを脅かす危険分子として抹殺される危機に立つことに・・。

ハンガーなんたらと同じだろうと思って期待値ゼロで見に行ったおかげで不覚にもそこそこ楽しめた。
お話の構造は『ハンガーゲーム』シリーズと同じ。近未来では富裕層が社会を治めていて、持たざる者の中からメシアが現れて世界を救いたまふというのが基本構造。これに人類救済にはLOVEが必要ということで男女の恋愛模様を盛り込み、ゲーム感覚のアクションシーンといまノッてる若手女優で味付ければほらもう大ヒット。アメリカ人はどこまでも信仰深く、シンプルだ。
信仰はキリスト教的なものに対してだけでなく、個性こそ善、人と違ってこそ社会で存在する意義がある、というアメリカの個人主義に対しても見てとれる。画一化された5つの集団の中からどれにも属さない例外が全体を救うのだ。集団で協調することが全体の目的を達成する最善の道と考える集団主義の日本とは真逆の発想。ヒット映画には必ずこうした文化的背景が透けて見えるものだ。
シャイリーン・ウッドリーを眺める2時間としては申し分ない。重たそうな身体でビルからジャンプしたり、綱渡りしたり、水攻めにあったり・・。スリム過ぎないボディと美人すぎない顔、飾らなっぽさが同性から支持を集める理由だろう。本国では今作に続き、主演の『The Fault In Our Stars』が恋愛ドラマとしては大ヒット。
ジェニファー・ローレンスに対抗する東の横綱現る、と見ていいだろう。ただ、シャイリーンは童顔のため、影のある役柄やシリアスなドラマにどこまでハマるか不透明である。当分は人気も評価もジェニファー姐さんがリードするだろうが、これから東西横綱による綱とり合戦にハリウッドは大いに沸くに違いない。
2014-07-22 Tue
少女のひと夏の思い出が問う、僕らの想像力英題:When Marnie Was There
製作:2014年 日本、米林 宏昌監督
声の出演:高月 彩良、有村 架純、ほか
レート:★★★☆☆
育ての親とは距離を取り、友だちもおらず、一人心を閉ざす杏奈(高月 彩良)。子どもの頃から患っている喘息を治すため、夏休みの間だけ北海道で療養することになる。湿地の先の大きな屋敷に興味を持ち、1人の少女と出会う。彼女の名前はマーニー(有村 架純)。杏奈とマーニーは惹かれあい、すぐに打ち解けるが、街の人は誰もマーニーのことを知らないと言う。マーニーとの秘密の日々は長くは続かなかった・・。

昨年の宮崎監督の引退によりジブリ・リブートとなる新たな一歩。などと一部メディアは呼んでいるが、これまでジブリは、というか宮崎監督は安定した収益を見越して作品を作ったことなど一度もなく、むしろ毎回ジブリの財布の中身をすっからかんにするほど一作一作が勝負のつもりで新しい世界を生み出そうとしてきた。なので、本作をして「今までのジブリとは異なる作風」だとか「脱宮崎を期する若手有望株の最新作」だとかいう表現はちょっと違っていて、今回もこれまでと同様、ジブリの一作品としての挑戦なのだ。
印象的だったのは、孤独に苦しむ12歳の少女の心をすごく的確にとらえて表現していたこと。「輪の外側」にいる人間からすると「内側」にいる人間がまぶしく見える、という見方は孤独を知っている人間でなければ出てこない言葉だろう。孤独な杏奈がマーニーと出逢い、友情とも恋とも言える感情が芽生える。マーニーを「妄想が作り上げた存在」だと考えたり、独占欲の反動で裏切りに苦しんだりするなど、杏奈の思春期特有の感情の発露は見ていて胸が切なくなった。
本作の感想を見ていると賛否あるようで、つまらなかったという声も多く見かけた。そういう意見に対し、それは杏奈の言葉を借りれば、「内側」の人たちの物の見方だろうという見方も。内側・外側という見方がどうこうというより、気になるのは杏奈のような思いを抱えて過ごしている人間もいるということを想像できていない人が見受けられること。なにも杏奈を肯定しろとは言わない。でも、そういう人間もいるってことを想像し、思いやる必要はある。
なんでもすぐに手に入る社会になって、自分も含めて本当に想像力が貧しい世の中になったと感じる。米林監督という新しい演出家にはなったけど、今という時代を捉える作品を送り出し続けてきたジブリの姿勢は本作でも健在だということが確認できてホッとひと安心。スタジオ存続のためにも最低、興収60~70億円は行ってほしいなぁ。